30年前、頚椎症性脊髄症の治療のため、後頭~Th3まで広範囲に術創が残る手術をされた。7月頃から頭痛がするようになり、近くの整形外科の受診したところ「歳のせいだ」と言われ、そこのリハビリで理学療法士に頚を揉んでもらっている。その時は気持ちいいが一向に良くならない(まあそうでしょう)。最近は顎も痛むことがあり、何故痛いのか理学療法士に問えば「わからない」との返答しか得られない。
「歳のせいなんて!理由がわからないなんて、そんなのある?!」と憤慨しつつ当サロンの予約電話をくださった。
水墨画がご趣味だが5分と下を向けないのでとても困る、とのことで、状況を確認。
症状は強いが、とても快活でお元気な方です。姿勢概観は著明な姿勢の偏りは無く、少し安心。
頚部の自動運動はどの方向に向いても可動域は正常の半分以下、左右の回旋では同側頚部痛と反対側伸張痛が強い。屈曲すると後面が強く引っ張られて痛い。頚部後面筋群は過緊張が著明で、胸鎖乳突筋も座位安静時で膨隆している。右に向くと右側頭部~後頭部の頭痛が強く誘発され、左に向くと左頚部の強い鈍痛が出現します。とても痛そう。
周囲筋の触診をすると、表層の僧帽筋が薄く非常に緊張が高い。特に左側は中間層との滑走が不良で、これはかなり引っ張られている様子。頚椎傍部も過緊張を呈しています。
頚部の手術後ですが、当サロンでは安全・適切な検査の施行が可能ですので、関節をひとつひとつ可動させると、どこも物凄く硬い。硬いというのは、関節包靭帯の粘弾性が極端に低く、関節の遊びがとても小さい状態、これは可動抵抗感で判断できます。
コンディショニング介入の定石は、まず軟部組織、筋肉への対応ですが、ここで安易に揉んだりすると(そもそも揉みませんが)、4時間以内に交感神経過活動を惹起し、痛みが増しますので行いません。関節の動きを求めるように誘導すると徐々に可動域が広がって、自動運動も楽になって来るようです。
側頭部~後頭部ですと、頚性頭痛なら原因部位は環軸関節とC2/3椎間関節になります。下顎の痛みも同じ機序で発生する場合もあります。しかし、そこの操作では誘発は不明瞭でした。むしろ緊張型頭痛と言った方が妥当かも知れませんね。いずれにしても、筋緊張の健全化を図るために、軟部組織の前に、脊柱のあちこち介入してコンディショニングを進めて行きます。
操作するたびにどんどん誘発状況が変化するのでご本人も驚かれますが、心配は要りません。最終的に右回旋時の頭痛が少し出現する程度に調節できました。こうした反応なら、コンディショニングでさらに良い状態へご案内することが出来るでしょう。
頚椎椎弓開大術の手術後における頚椎カラー使用について、日本および海外の診療ガイドラインを概観すると、一時的な短期使用は疼痛軽減に奏功するが、長期使用では疼痛の慢性化や可動域制限のリスクが指摘されています。術後リハビリテーション場面では、頚椎は怖いからね、などと言って固定しっぱなし、固定を外したら触らないでそのまま放置、という状況が多いことから、ADLにおける頭頚部の運動をコーディネート、あるいは指導してもらえないことが多いと思います。だから、長期間にわたる寡動傾向の遷延が知覚活動の消極化を助長し、健全な身体活動の阻害、慢性疼痛が惹起されるものと推察しています。
手術歴のある頚椎に直接介入し、コンディショニングできるのは、徒手医学エキスパートである理学療法士による、プロの仕事です。こういうことが本当の「信頼」であり、あなたの「主体的な人生の再獲得」にかかわる資格があるものと確信するところです。